2018年度の森林伐採に対する抗議声明

 国頭村内では今年度(2018年度)も、辺土、宜名真、伊地で森林伐採が行われています。

 やんばるDONぐり~ずは、県内外の環境保護団体・個人とともに、抗議声明(2018年11月5日)を発表し、次の宛先に抗議声明を発送しました。

〇送付先

環境省環境大臣、那覇自然環境事務所、林野庁長官、沖縄県森林管理署、沖縄県知事、沖縄県議会議員、国頭村長、国頭村議、大宜味村長、大宜味村議、東村長、東村議、国頭村森林組合、沖縄タイムス、琉球新報


 この抗議声明の発表について、2018年11月21日付の琉球新報で報道されました。


 抗議声明の本文を下記に貼り付けます。


抗議声明

2018年11月5日

抗議声明の趣旨

 我々は、国頭村有地において現在進行中の伐採に対して抗議の意思を表明するとともに、下記のとおり緊急に提言する。

1 国頭村有地において現在進行中の伐採を直ちに中止すること

2 今後やんばるの森林の伐採を行わず、保全・保護のため、保護区の抜本的見直しを含めあらゆる方策をとること

抗議声明の理由

1 環境省及び沖縄県は、やんばる地域の世界遺産登録を目指す立場を明確にし、環境省は、2016年9月15日、国内33カ所目の国立公園として、沖縄島北部地域を「やんばる国立公園」として新たに指定した。

 2017年2月に、政府はやんばる地域を含む推薦書をユネスコに提出したが、2018年4月末、IUCNから世界遺産登録延期勧告を受けたことを政府が発表した。

2 登録延期の理由は、環境省ホームページに掲載されているIUCN評価結果の概要によると、登録基準の一つである生態系については「資産の分断等において、生態学的な持続可能性に重大な懸念があるため、推薦地は完全性の要件に合致しない。推薦地は評価基準には合致しない」と指摘する。

 また、生物多様性については「絶滅危惧種の種数や割合も多く、固有種と固有種率も高い。世界的な絶滅危惧種の保護のために高いかけがえのなさを示す地域を含んでいる。」としつつも、「北部訓練場返還地の関連地域を加え、推薦の価値をもたない不適切な構成要素を除去すれば、推薦資産は本評価基準に合致する可能性がある」と指摘する。

 新聞報道等では、後者の勧告事項のみが大々的に報じられているが、前者の生態系の指摘については生物多様性を持続していく上では重要な課題であり、この課題は国頭村有地で毎年行われている森林伐採と大きく関連するものであると言っても過言ではない。

3 すなわち、毎年行われる森林伐採は,やんばるの生態系を維持する上で必要不可欠な場 所で行われており,希少種,固有種の重要な生息場所になっている場所である。森林伐採に当たっては科学的な調査は一切なされておらず,伐採の都合のみが優先されるため,やんばるの中でも中核となるべき場所も伐採の対象となっている。

 とくに問題なのは,保護担保措置として計画されたはずのやんばる国立公園 が,全く保護担保措置となっていないことである。たとえば,2015年の伐 採のうち国頭村謝敷の1.58haの伐採はやんばる国立公園の第3種特別地 域に,2016年の伐採のうち国頭村謝敷の4.96haの伐採は,第2種特 別地域内に位置している。

 やんばる国立公園は,指定面積が狭すぎる。とくに厳しい規制に服するため 保護担保措置があると言える特別保護地区はやんばる地域全体の2.3%に留 まる。第1種特別保護地域を含めるとやんばる地域全体の約14%になるが, 第1種特別保護地域でも森林伐採は可能である。上記のとおり,第2種特別地 域においては大規模な伐採が行われている。

 この点について環境省は,やんばる国立公園の指定が2016年9月であるところ,伐採は2016年7月ころ には契約がなされて着手されていることから,届出だけで足りるなどと説明しているが,国立公園の詳細な計画案は2016年3月には公表されているから理由にはならない。また,現行の自然公園法では,第2種特別地域でも伐区に おける蓄積の30%ないし60%の択伐や2ha以内の皆伐が可能であり,皆伐についても2haを超えて伐採ができる例外規定が設けられている(自然公 園法施行規則11条15項2号ロ(1))。この例外規定の適用は容易になさ れるおそれがあり,大規模な皆伐に対する規制措置は不十分である。

 また,やんばる国立公園では,自然保護団体の調査により生物多様性が高い ことが判明し,オキナワウラジロガシなど固有種の保護が特に必要な場所につ いても,開発可能な地域として指定されているなど,区分けが生態学的知見に 基づかない恣意的なものとなっている。本来,保護区の区分けは,ノグチゲラ などの希少・固有種が個体群として維持されるために必要な範囲を科学的に検 討した上でなされるべきであるが,そのような科学的な調査が一切なされてい ない。結果として,やんばる国立公園は,個体群の孤立化と分断を招き,生物 多様性を毀損するものとなっている。

 上記の点、2017年3月21日付意見書「やんばる地域の世界遺産登録について」においても指摘したところである。

4 IUCNの上記を受けても、国頭村内では、現在、下記の3カ所において伐採が行われている。下記①及②の伐採は、皆伐という、草木をすべて伐採して山を丸裸にする方法をとっている。

   伐採箇所            伐採面積

  ①辺土・吉波山1149-1    1.48㏊

  ②宜名真・吉波山1284-1   0.92㏊

  ③伊地・福原595-98     1.5㏊

 このうち③伊地の伐採地は、国立公園の第2種特別地域に含まれている。択抜という伐採方法を選択しているものの、天然更新した樹木を伐採しており、生態系への影響は皆無とはいえないことから、国立公園の指定が、やんばるの自然保護に十分な有効性を発揮していないことを示している。

 また、①辺土については、伐採面積は例年の伐採面積に比して大きいとはいえないものの、2010年にも同じ林班内で約5㏊の皆伐が実施されており、そのほとんどがイタジイであったことから、イタジイを中心とする生態系を破壊するものである。

5 やんばる地域の世界遺産登録を目指している環境省、沖縄県及び国頭村がこのような自体を容認・放置するのは、行政として矛盾した対応である。

 行政は、IUCNの勧告を真摯に受け止め、持続可能性を無視して自然を利用し続けること及び人間が生活して富を得るための代償であるならばやむを得ないという態度を再考し、国頭三村が森林の保全・保護と経済的自立を両立する機会として利用すべきでる。

 我々は、環境省、沖縄県及び国頭村に対し、世界遺産登録という方向性に沿い、やんばるの自然をこれ以上破壊せず、保全・保護する方策を採るように提言する。