止まらない森林伐採

 2016年9月15日、環境省は沖縄本島北部のやんばる地域を国立公園に指定しました。

 これは世界自然遺産「奄美・琉球」への登録をにらんでのことだといわれています。これまでの国立公園は風景地の保全と利用に重きがおかれ、生物多様性の保護はその下位に置かれていたと言っても過言ではありません。

 やんばるの国立公園の指定が世界自然遺産登録のためにあるとすれば、優先すべき目的(機能)は、固有種を含むやんばるの生物相の保護・保全にあります。

1 止まらない伐採

 しかしその一方で、国の特別天然記念物ノグチゲラの繁殖に不可欠なイタジイの森が、国頭村などの天然林皆伐施行によってあっという間に丸裸にされたり、沖縄県による林道建設工事のために斜面が削られ、沢が埋め立てられたりしています。伐採や工事で無残に裸地化した山肌からは、赤土で錆色に染まった水が海に流れ出て、青かったサンゴ礁を埋もれさせています。

 やんばるの森での皆伐施業は、過去の話ではありません。今も毎年続いていて、動植物のすみかを急速に奪いつつあります。世論の批判を浴びて一時休止状態の林道建設工事も、計画は依然として生きていて、いつ息を吹き返すかわかりません。

 以下の表は、2009年度から2015年度まで実施された皆伐施業の一覧表です(国頭村長と国頭村森林組合が締結した「立木売買契約書」より)。

 上記の表から明かなように、4ha のやんばるの森は約40万円~約60万円程度で売却されています。谷の中腹から尾根にかけて生育している細い樹木は、伐採・売却しても赤字にしかなりません。ほとんどが単価の低いチップ用材なので、伐採や搬出などの経費が売却額を上回ってしまいます。赤字の埋め合わせをかろうじて黒字を保っていられるのは谷筋に集中してはえている太い木の売却益のおかげです。しかし、このような価値の高い木は、やんばるにはもうほとんど残っていません。

2 補助金目的の「林業」の実態

 4ha あたり約40万円~約60万円程度の利益しかあがらないような林業は成り立つのでしょうか。

 森を皆伐すると、そこに「荒れた森」が生まれます。自治体による荒れた森の再生は林野庁の補助対象(森林環境保全整備事業)です。植林、保育、林道の整備などに、何年にもわたって多額の補助金が注ぎ込まれているのです。自治体自らやんばるの森林を売り払って「荒れた森林」を作り出し、再整備の名目で多額の補助金を引っ張ってくるのです。補助金を獲得するために行われる伐採は、もはや林業と呼べません。

3 国立公園の指定でやんばるの森は保全できる!?

 沖縄本島のやんばるでは国立公園として指定された地域(陸域)は13622ha で、やんばる地域、約34,000ha の40%に過ぎず、その内訳は円グラフのとおりです。

 やんばる地域よりやや狭い西表島については、全島を国立公園化(29000ha)する方針であることを考えれば、やんばる地域の公園指定地域が狭すぎる問題点があります。

 また、国立公園に指定されたやんばる地域では、保護地区が設定されていますが、開発による現状変更(破壊)が厳しく制限されるのは特別保護地区とせいぜい第1種特別地域だけで、それ以外の地域では事実上、利用に厳しい制限はなく、開発が可能となる地

域です。

 つまり、国立公園に指定されても、今後も伐採が可能な状況です。

 その背後には、やんばるの林業問題があります。やんばる地域では主に国頭村で県と村が競うように森林整備事業を展開してきたし、今後も継続することを目論んでいます。

 環境省が示した保護区分では、個体群の孤立化と分断を招き、長期的にはやんばるの生物多様性を毀損し、種や個体群の絶滅を招来するものになりかねません。

 保護区の設定は土地利用(開発)を前提にするのではなく、個体群維持を基本に据えるという意味では、現在の保護地区の区分けは再考すべきです。

(「やんばる国立公園区域図」は2016/6/21琉球新報から引用)


すばらしい天然林、生物多様性を消滅させる皆伐

 上の2枚の写真は、国頭村謝敷で2016年3月(伐採前)と2016年10月(伐採後)に同じ地点から撮影したものです。

 写真左奥には与那覇岳が遠望できます。希少種が多く生息し、本来は特別保護区に指定されるべき緑豊かなイタジイの森でしたが、無残にも伐採されてしまいました。保護区の区域割りはあくまで人間がしたもので、そこで生きる生物たちには人間が引いた境界線などありません。

 いつまでこのような伐採を続けるのでしょうか。