自然の権利基金への第3次命の森やんばる訴訟事件報告
第3次命の森やんばる訴訟の支援をしていただいている『「自然の権利」基金』が発行している『「自然の権利」基金通信Vol.82』に、やんばるDONぐり~ず共同代表喜多の事件報告を掲載していただきましたので、紹介します。
第3次命の森やんばる訴訟
1 やんばるの現状
沖縄県北部のやんばるは,イタジイを中心にした亜熱帯照葉樹林帯が広がる森林地帯で,ノグチゲラ,ヤンバルクイナ,ヤンバルテナガコガネなどの固有種,希少種が多く生息しています。その生態系と生物多様性が高く評価され,2017年,環境省はやんばる地域を含む奄美・琉球を世界自然遺産登録に推薦しました。ところが,世界遺産登録を審査するユネスコの諮問機関であるIUCNが,登録延期を勧告したため,環境省は一旦推薦を取り下げることになり,現在は2020年の登録を目指しています。
この登録延期の勧告では,「資産の分断等において,生態学的な持続可能性に重大な懸念がある」こと,また生物多様性の点で重要な価値を有する北部訓練場の返還地が含まれていないことなどが指摘されました。
この「資産の分断」という点は,今のやんばるを考える上で非常に重要です。もともと環境省が推薦した世界遺産登録の案は,2016年に指定されたやんばる国立公園がもととなっていますが,このやんばる国立公園は,やんばる全体を網羅するものではなく,開発が厳しく規制される特別保護地区はやんばる全体の3%以下となっていました。生態学的に見れば狭いやんばるの更にわずかな一部を保護したところで,やんばる全体の生態系を保護できるのか疑問があり,私たちはこの点を批判してきましたが,それがIUCNの勧告でより一層明確になってしまいました。
2 やんばるの開発と裁判
自然保護という観点からは実効性のないやんばる国立公園,そして世界遺産の案になってしまった背景には,これらが,やんばるで行われている開発への配慮のもとで計画されたことがあります。やんばるでは,沖縄の本土復帰(1972年)以降,ダム開発,土地改良事業などの大型公共事業が行われてきました。現在問題になっているのは林道開発,伐採,森林施業など林業の名目で行われる開発です。とりわけ森林伐採は,皆伐という草木を全て伐採して山を丸裸にする方式で,毎年10ヘクタールの規模で動植物の生息地が破壊されています。伐採による赤土の流出は,サンゴを初めとした海の生態系にも悪影響を与えます。
林業とはいうものの,伐採した樹木の多くはチップ等として売却され,採算が取れません。しかし,伐採後,植林やその後の森林施業の過程で国庫から多額の補助金が出るため,その補助金目当てに伐採が行われるという悪循環が続いてきました。
このような開発を止めようと,2007年に沖縄県民が原告となって沖縄県に対し林道開設事業の公金支出差止めを求めた「第2次命の森やんばる訴訟」が提起されました。林道工事のみならず伐採,森林施業などの問題点が争点になり,沖縄県議会でも大きく取り上げられたこともあって林道建設工事は全て休止(事実上の中止)となりました。
第2次命の森やんばる訴訟やそれに先立つ第1次訴訟,それと連動して繰り広げられた粘り強い運動により,森林伐採の規模も大幅に縮小されてきました。
しかし,2016年,沖縄振興の名目で国が負担する一括交付金という制度を使って,生物多様性豊かなやんばる本来の森林が大規模に伐採されてしまいました。日本一大きなどんぐりの実をつけるオキナワウラジロガシの大木や,ノグチゲラの営巣が可能なイタジイの大木も伐採されました。
これに対して,2017年,沖縄県民の有志が,補助金の一部を負担した沖縄県を相手として,「第3次命の森やんばる訴訟」(違法公金支出金返還等請求事件)を提起しました。
裁判を行う中で,豊かなやんばるの森を,「耕作放棄地」と認定して伐採を進めたことも分かってきました。
3 今後の展望
この第3次命の森やんばる訴訟では,第2次訴訟に引き続き,自然の権利基金からご支援をいただいています。
沖縄県や国頭村などの地元自治体は世界自然遺産登録を推進しており,そのこと自体は沖縄県民も歓迎していますが,その裏でこのような開発が推進されていることは沖縄県民にもよく知られていません。
この裁判は,そのような現状に対する一つの問題提起です。この裁判や,またその他の様々な活動を通して,多くの方にやんばるのすばらしさと現状を知っていただくこと,そして自然を活かしたまちづくりに政策転換することを目指して取り組みたいと思います。
私たちの自然保護団体「やんばるDONぐりーず」では,ホームページとFacebookで最新の活動を発信しています。ぜひご覧ください。
https://yanbarudonguri.localinfo.jp/
https://www.facebook.com/yanbarudonguri/
以 上
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